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「夫婦別姓」と「戸籍制度廃止」(11)

前回】のつづき>>>>

 

 

 

翌朝、美和子は与一のエスコートで、祐介たちのいるオフィスへ向かった。

本来なら、通勤時間帯のはずなのに人は疎らで、道は閑散としている。

「与一君、あなたたちは自由に外を出歩いているようだけど、危険じゃないの?」

「ああ、僕たちは浮浪児やってたから、危ない所と危なくない所もよく知ってるし。それに、あの特権階級の連中は、男は狙わないんだ」

美和子は、昨日、君江に聞いた女性救済センターの話を思い出した。

 

センターには、臨月で入所する女性も多かったようだが、出産が終わっても誰ひとりとして出所しなかったという。その噂が広まると、今度は入所する女性がいなくなった。やがて、センターには妊娠もしていないと思われる若い女性が、どこからか連れてこられるようになった。同じころ、特権階級による横暴が街で頻発し始めた。君江は、自分のように家を乗っ取られて行く当てのない若い女性だけじゃ足りずに、路上で若い女性を拉致しているのではないかと疑っていた。

朝から嫌な気分になったが、与一と二人、黙ってオフィスまで歩き続けた。

 

オフィスに入ると、朝8時だというのに祐介たちの仕事は、すでに佳境に入っているようだった。

誰もが真剣に作業を続けていて、美和子の入室を気遣う者はいない。

入口近くで、昨日会った岡野という青年が黙々と作業している。美和子と目が合うと、軽く会釈した。

奥の方に祐介が見えた。

「おはようございます。」

「ああ、おはよう。早いね。」

「先輩達こそ」

「いつもの事さ。それより、部屋でゆっくり休んでいればよかったのに」

「そんな悠長なことしていられないわよ」美和子は、つかつかと歩み寄った。「昨日、寺坂さんから詳しく話を聞いて、もうビックリよ。世の中が、ここまで異常をきたしているなんて。何もかもが信じられないわ」

祐介は、茶色がかった瞳で美和子をじっと見た。

「先輩?私には、不平を言う資格はないって言いたそうね」

「そんなことないさ。まあ、ここまで異常だと気付かなかった僕らにも抜かりがあったわけだし。」

祐介は、マシンからカセットのようなものを取り出し入れ替えた。

「先輩、それは?」

「磁気テープだよ。大量のデータをバックアップする必要があるんでね。関東中から集めた」

「関東中?」

「まあ、立ってないで座って」

祐介は、美和子をソファに促すと、昨日と同じ動作でコーヒーを淹れテーブルに置いた。

 

「ねえ、先輩。あのお部屋はとても有難いんだけど、どうして川村さんをあんな小さなアパートに?あのビルの上の階、空いてるじゃない」

「川村さんの希望なんだよ。君の家の人たちが失踪してから、川村さんはずっと君が帰ってくるのを待っていたんだ。でも、君が戻る前に、川村さんが住んでいた家を出なくちゃならなくなったから、できるだけ君の家の近所で目立たないように暮らしたいって言って」

「そう。だったら、もう私は戻ったんだし、川村さんにも移ってもらったら?」

「一応、聞いてみるけど、仕事もあるからね」

「仕事?そういえば、ビル清掃だって言ってたわね。あのアパートの近くなの?」

「ああ、君も見たと思うけど・・」

「まさか、女性救済センター?」

祐介が目で頷くと、美和子の表情が険しく曇った。

「あんなところで何させてるの?危ない事じゃないでしょうね」

「心配いらない。ただの清掃だから」

「ただの清掃なわけないわね。でも、まあいいわ。川村さん本人に聞くから。ところで、与一君達には何をさせてるわけ?」

「相変わらず何でも知りたがるんだね、君は。彼らは有能だから、ありとあらゆることをやってもらってるよ。君の護衛もその一つ。あとは連絡係や、情報収集や、物を運んだりしてもらってる」

「運搬?」

美和子は、クスリと笑いながら興味深そうに聞いた。

「笑い事じゃなく、物凄く重要なんだよ。100%なんていう狂った消費税を払わないためには、物々交換が一番だろ。そのための情報交換やモノの移動をやってもらってる。それ以外にも、僕らの仕事に必要な物を運んでもらったりね」

「先輩たちの仕事の全体像が、全く掴めないわ」

「詳細は言えないけど、日本中のデータを集めて大切に保管する仕事が一つ。まあ、日本中と言っても僕らは関東エリアの担当なんだけど。あとは、世の中を元に戻すための準備」

世の中を元に戻すという話は昨日も聞いたが、美和子には、さっぱり内容が掴めなかった。

詳しい事は言えないと言うから、これ以上追及しても無駄だろう。

 

「ところで、アメリカでジャーナリズムを専攻してきた君を見込んで、頼みたい事があるんだが」

祐介は、身を乗り出した。

「何よ?突然」

「君の古巣のNBSテレビに戻ってみないかい?」

「NBSですって?あそこの男社会の古い体質が嫌で辞めたのよ。なんで今さら」

「まあ、ずっととは言わないよ。僕たちの仕事が完了するまででいいんだ」

「完了するって、どのくらい?」

祐介は、天井を見上げた。

「そうだな、あと3週間ぐらいかな。敵の動き次第だけど」

本当にそんなに短い期間で、祐介たちの仕事、つまり世の中を元に戻す作業は終わるのだろうか。

美和子は、疑わしい表情で祐介を見た。

祐介は、美和子の目を見て黙ってうなずいている。

「先輩が、それほどまで言うなら。でも、戻れるのかしら?」

「その点は、調べてあるから大丈夫。地デジに移行したり、人が大量に退職したりで、混乱して人手不足で困っている。君がアメリカから戻ったと言えばすぐに戻れるはずだよ。それに、君と大学で同じゼミだったっていう越善さんはまだいるから、彼女に連絡を取ればいい」

「ああ、下野教授のゼミの・・」

「そう、フェミニストで有名な下野先生の愛弟子だった君なら、局も大喜びで受け入れるさ。まあ、人が大幅に入れ替わっていて、行ったら驚くとは思うけど」

「先輩は、そういう所を利用するわけね。」

「非常事態なんだ。何だって利用するよ」

「分ったわ、それで私は何をすればいいの?」

 

 

「普通に仕事をしていればいい。でも、局の人間にKカードのID取得を奨められると思うけど、絶対に乗らないようにね。但し、強く拒絶しないで、そのうちやるとか言ってやんわり断るんだ」

 

 

 

>>>>> つづく 

 

 

AUTHOR: kenzo1348 DATE: 08/10/2010 17:55:25 こんにちは。 このシリーズで(10)がアップされていたのをうっかり見過ごしていたので、(10)、(11)と先ほど読んだところです。しかしmaaz師匠筆が早いね~。 さて、(10)、(11)に出てくる寺坂君江は47士の内ただ一人足軽ゆえに討ち入り後一行を退いた寺坂吉右衛門の母君? 昨日会った岡野とは、恋人の大工の娘を通じて吉良屋敷の図面を作った色男岡野金右衛門ですね。 赤穂浪士のことは纏まったものを殆ど活字で読んだ事がないので、ちょっくら図書館に行って調べてこよう( ..)φメモメモ。
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To kenzo1348さん
>あっはは、外野が煩いですねm(__)m。
>
>史実と物語の整合性にとらわれると思うようには筆が運ばなくなりますね。
>
>これからは黙って拝読します。
>
いえいえ。
忠臣蔵ファンとしては、赤穂浪士とわかって頂けて喜んでおります。

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