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「夫婦別姓」と「戸籍制度廃止」(12)

前回】のつづき>>>>

 

 


「美和子が帰ってきてくれるなんて、本当に嬉しいわ」
越善マユミは、以前より幾分濃い目のメイクを施した目を、眩しそうに細めながら微笑んだ。

 

テレビ局近くのカフェは以前と変わりなく営業していたが、テラスのテーブルは夏も盛りになろうと言うのに閑散としていた。普通なら、採算がとれずに閉店するような状況でも続いているのは、この店が民主党政権による新体制の受益者であることを物語っている。
活気のまるでなくなった街の中で、派手目のキャリアウーマン風ファッションを身にまとい、自信に満ちたポーズをとるマユミの周りには虚しい空気が漂っているように見えた。

 

「何年ぶりかしら?」
「6年よ」
「そんなに前だった?じゃあ、きっと局を見たら驚くわ。何もかもが変わっていて。素晴らしいわよ」
「素晴らしい?」
美和子は、訝しんだ。
ホテルでテレビを見た時、NBSは韓国語放送しかしていなかった。社会に役立つ報道が使命のはずなのに、日本社会の大多数を占める日本人が見て役立つ番組を一つも流していない。アメリカの報道でもマイノリティへの配慮は重視されていたが、公共の電波を使ってこのようなことをすれば放送免許が剥奪される。

 

「局がどう変わっているかは、戻ってきてもらえば分かるから。楽しみにしていて」

 

美和子には、マユミの態度が鼻についた。
以前は、そんなことを感じることはなかった。6年の間に、自分が変わったのか、それともマユミが変わったのか。
それにしても、今朝祐介に頼まれてマユミに連絡を取って、その日の午後にこうして会えるなんて、閑職に回されているとしか思えない。

 

「そう。で、いつ面接に行けばいい?」美和子は、事務的に聞いた。
「それは必要ないわ。私が上司に話を通しておいたから。以前、局にいた時も優秀だったし、下野ゼミの優等生なら猶のこと大歓迎ですって」
「ちょっと。面接が必要ないだなんて、いくら私が以前在籍していた人間だからってイージー過ぎるわ。それともマユミは、そんなに出世しちゃったのかしら?」
「そうでもないわ。報道部長付きのアシスタントよ。」
「アシスタント?それじゃ、マユミは報道の最前線から退いたってこと?」
「今の体制では、報道の最前線より上よ。特別な功績が認められたのよ」
「特別な功績?」

 

マユミは、意味ありげに美和子に視線を向けながら、局の入管証を首からはずし、テーブルの上で裏返して見せた。

 

昨日、寺坂君江が見せたIDカード、納税者登録証明証と同じデザインだったが、赤と青の縁取りがあった。
ID番号は「K」で始まっている。

 

「マユミ、あなたまさか?」
「Kカードよ。私も特権階級の仲間入りしたのよ」
「特権階級ですって?」
「Kカードは、在日コリアンと民主党政権実現に功績のあった日本人しか取得できないのよ。私は一昨年、前政権の大臣を辞任に追い込んだ功績が認められて取得できたの」
マユミの態度は、一層鼻に付くものになった。
「辞任だなんて、どうやって・・」
「大臣の国際会議に取材で同行したのよ。チャンスを窺って薬を飲ませて、会議で大失態を演じさせたの。それは、ものすごい反響だったわ。おかげで大臣は辞任して、その後の衆議院選挙はあの通りの結果でしょう。それ以来、私は局でもジャンヌ・ダルク扱いよ」
夏の日差しを仰ぎながら、マユミは誇らしげに笑った。
「そんな真似、マユミの考えでやったの?」
「いいえ。トップからの指示よ。局のオーナーから直々に話があって、何人かが実行に携わったのだけれど、成功したのは私だけ。すごいでしょう」
大臣に海外で恥をかかせて誇らしげになっているマユミを、美和子は異生物を見るような気持ちで見た。

 

美和子は、遠くを見つめた。
以前の美和子なら、局のオーナーから同様の指示を受けたら迷わず実行していたかも知れない。得意になっているマユミに違和感を感じさせているのは、アメリカ滞在の6年間だ。

 

自国の大臣を海外で陥れる。

 

アメリカでも、マスコミが敵対する政党の要人の足を引っ張ることはよくある。だが、すべて国内での事案だ。たとえ敵対政党の大臣であっても、海外で失態を演じさせるのは国の威信に拘わる。絶対にありえないことだった。

 

―― 国の威信なんて言葉が浮かんでくるなんて。

 

下野教授のゼミにいたころは、そんな言葉に反発すら感じていた。
そして、マユミも美和子も、特権階級などという言葉には拒絶反応すら示していたはずだ。
美和子は、力のない微笑みを浮かべた。

 

「ねえ、美和子。他ならぬあなたのためなら、私からKカードを取得できるように取り計らうわ。あなたには、その資格が充分にあると思うもの。是非、そうしなさいよ」

 

マユミの言葉に、美和子はハッとした。
矢頭祐介の言ったとおりだ。
「ええ、そうね。もう少し落ち着いたら考えるわ」
美和子は祐介の言葉を思い出し、言葉を濁した。

 


    *  *  *

 


マユミの手配したタクシーを降りると、ビルの下で与一が待っていた。


「おねえさん。母さんが、うちでご飯食べて行けって。矢頭さんも来てるよ」
そう言うと、与一はエレベータを使わずに階段を駆け上がった。美和子も、与一の後に続いた。

 

与一たちの部屋に入ると、寺坂君江はテーブルの準備中だった。
「おかえりなさい。すぐに、食事の準備ができるわ」
「ありがとうございます」
中に入ると、祐介が奥のソファに腰掛けていた。
「就職おめでとう」
祐介は、立ち上がって美和子を手招きした。美和子は、祐介の隣に座った。
 

「まるで見てきたように言うのね。確かに就職できたけど」
「君が連絡を取ったら、越善さんが仲間に引き入れるのは分かり切っていたからさ。それで、Kカードの取得は勧められなかった?」
「早速、勧められたわよ。バカバカしい。先輩に言われなくても、あんなものお断りだわ」
「そう?君なら彼女と同様に、喜んで取得したがるかと思ったんだけど」
「冗談言わないで!私は、フェミニズムに傾倒していたけど、自分が特権階級になるなんて私の考えるフェミニズムとは全然違うわ。私は、マユミみたいに大臣を失脚させた功績を買われたとしても、そんなもの断るわ。見損なわないで」
「大臣を失脚させた功績?」
祐介はニヤリとした。
「なんだか知らないけど、そんなこと言ってたわ。なんでも局のオーナー直々の命で、大臣に薬を盛ったんですって。あんなこと得意気に話すなんて、マユミはどうかしてるわ」

 

アハハハハハハハハハ・・・

 

祐介が突然笑い出したので、美和子は目を丸くした。
「何?先輩、どうかしたの?」

 

「ごめん。何でもないよ」
笑いを押さえながら、祐介が言った。
「君は、本当に優秀だよ。欲しいと思っていた情報をこんなに早く入手してくるなんて。さあ、食事の支度ができたみたいだ」
祐介は、美和子をエスコートした。


 

美和子は、祐介の笑いの意味が分からないまま席についた。

 

 


>>>>>つづく

AUTHOR: kenzo1348 DATE: 08/18/2010 23:44:09 こんばんは。 ややっ!!、出ましたな。中川昭ちゃんに毒をもったとされる噂の女記者、越前▼知子の江戸版。 するとNBSはBS日テレのこと? 話全く変わって、オーストラリアでは現首相のギラードが共和制移行への支持を表明、対して野党自由党のアボットは「直ぐにそんな事にはならない」とか述べたらしいですが、これは21日の総選挙の争点の一つになっているのでしょうか? 共和制と聞くと私メなんぞは直ぐ中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国を連想してしまうのですが、豪州の左傾度はどうなっているのでしょうか。お暇な時にでもmaaz師匠のご解説を。
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