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「夫婦別姓」と「戸籍制度廃止」 (14)

前回】のつづき>>>>

 

 

 

美和子が去った席を、与一は背中を丸めてじっと見つめた。
照明がグラスを通して白いテーブルクロスに、きれいな葡萄色の影を落としている。

 

与一は、ふっと顔を上げると祐介に向き直った。

 

「ねえ。さっきの矢頭さん、いつもの矢頭さんらしくなかったよ。いつもは、すごく冷静なのに。どうしてお姉さんに対してあんな風に言うの?」
「なんだ、与一。ずいぶんお姉さんの肩を持つんだな」
祐介は笑った。
「そんなんじゃないよ。でも、なんかお姉さん見てたら、可哀相になったんだ。ちょっと涙ぐんでたし」
「そうだったね。でも、お姉さんにはしっかりしてもらわないと。来週から、敵の真っ只中で仕事してもらうんだし。僕らの仕事が終わるまでの二週間の間に、彼らに丸め込まれでもしたら困るからね」
「え?お姉さんの役割はもう終わったんじゃないの?」
「一つはね。でも、実はもう一つあるんだ」
「お姉さんは、それ知ってるの?」
祐介は、与一の眼を見ながら微笑んで言った。
「与一。これは内緒だ」
「騙してるの?」
「そうじゃない。知らない方が本人も気が楽だし、難しいことでも危険なことでもないからさ」

 

「川村先生みたいな、難しい仕事じゃないのね?」
与一の母の君江がキッチンから口をはさんだ。
「大丈夫ですよ。放っておいても、今日みたいに入ってくるはずの情報を持ってきてもらうだけだから。本人もそれと知らずに」
「それならいいけど」
君江は、エプロンで手を拭きながらテーブルに戻ってきた。
「それにしても、川村先生はお気の毒だわ。私なんて、生活と夫の看病のことしか頭になくて、選挙公約に釣られて民主党に投票し

てしまったんですもの。それで、与一にまであんな苦労をさせてしまって。馬鹿だったわ。少しでも収入の足しになるなんて考えて

・・」
「それは、仕方ないですよ。仕事しながら看病して与一君の面倒も見てたら何も考える時間なんてなかったでしょう」
「でも、川村先生の不幸は、私みたいな自業自得じゃないのよ。先生のご主人がずっと大石議員の支援をしていたから狙われたのよ。川村先生の他にも、同じような目に遭ってる支援者がいるって聞いたわ。民主党は、自分たちを支援しない者からは何でも奪い取るって。あの口蹄疫もそうだったんでしょう?だから民主党支持基盤の強い県は儲かったって聞くわ」
「民主党なんて、名前だけ民主主義で中身は独裁さ。やってることはスターリンやポルポトと変わらない」
君江は、少し不安そうな目をした。
「大丈夫ですよ。もうすぐ僕らが何とかします。と言っても、大石さんが全部考えた計画なんですけどね。でも、やれるとしたら今しかチャンスはないから。与一君にも頑張ってもらってますけど」
「お願いしますね、矢頭さん」

 

「ねえ、ねえ。矢頭さん。さっき言ってた『日本は最大の債権国』ってどういうこと?」
思い出したように、与一が訊ねた。
「ああ、あれか。こういうことだよ。例えば、君がお金を貸してあげてる友達が、誰かと殴り合いのケンカをして死んだりしたら困るだろう。一先ず、その友達の味方に付こうと思わないか?」
「うん」
「でも、君がお金を借りてる相手だったらどうする?」
「ああ、そういうことか」
与一は嬉しそうに笑った。
「矢頭さんたちといると勉強になることが多いね。でも、日本ってそんなに外国にお金貸してるの?」
「ああ、援助という名目でね。日本人は、国際協力とか援助というと無条件にいいことだと勘違いしてるけど、状況によってはそれが最悪の事態を招くこともあるんだ。援助をしていれば有難がられるとか、信用されるとか思いこまない方がいい」
「そんなものかなぁ」
「日本が、これまで最大の援助をしてきた国を見ればわかるだろう。中国だ。中国は、日本の援助で発展したと言っていい。でも、彼らが有難がっているか?それどころか、日本の援助で拡大した軍事力で恫喝したりしてきている。二番目に援助の多い韓国だって同じだ。世の中なんて、そんなものだよ」
「ああそうか。でも、学校の先生は日本が悪いことをしたから、中国や韓国が反発しているって教えてたけど」
「あっはっは。そりゃ、典型的な日教組教師だな。中国や韓国は、自力で発展してきたと国民に嘘をついているから、日本からの援助を隠し通したいだけさ。そのために、必死になって日本にも工作を仕掛けてきている。オンライン授業のアーカイブに関係した資料があるから、それを読めばよくわかるよ」
「わかった。ありがとう」
「与一は頭がいいから、まじめに勉強しておけよ。世の中が元に戻ったら、すぐにいい学校に入れるように手配するから」
「何から何まで、面倒見ていただいて・・・」
君江は、立ち上がって深々と頭を下げた。
「気にしないでください。僕の力じゃないですから。大石さんが解放されたらお礼を言ってください。それじゃ、僕は帰ります。ごちそうさまでした」
「お気を付けて」
君江と与一がドアまで見送ると、祐介は軽く会釈してから与一の頭をひと撫でして部屋を出て行った。

 


    *    *    *    *

 

 

「美和子、ちょっといい?相談したいことがあるの」
越善マユミは、書類を片手に美和子を手招きした。

 

美和子が、古巣のNBSテレビに戻って五日が過ぎていた。祐介の言っていた局の異常さは、入って一日目で理解できた。

局は、韓国人とKカード保持者の元日本人の巣窟と化していた。仕事のできるスタッフは全員辞めていて、報道部は取材も碌にできない素人集団が跋扈していた。こんな無能な集団と一緒に仕事をするかと思うと気が滅入りそうだったが、結局、美和子はマユミと同じ管理部門に配属された。
辞めたスタッフたちは、CS放送で仕事をしているという。以前からいる韓国人スタッフと、新たに入った素人スタッフだけになった局では番組作りも何もできず、韓国から仕入れたコンテンツを朝から晩までひたすら流しているだけだった。どこの局も、同じような状況らしい。局によって、韓国人の代わりに中国人が入り込んでいる程度の違いしかないという。美和子が、帰国して最初に泊まったホテルで見た韓国語放送と中国語放送は、単純に無能集団の成せる業でしかなかった。これで、まともなスポンサーが付くはずもなかったが、民主党が民法各局に莫大な公的補助を出すことを決めたおかげで、給与水準は以前と変わっていなかった。

 

これが、祐介の言う異常な局の実態であり、かつ、マユミの称賛する素晴らしい職場であった。

 

美和子は、マユミの後からミーティング・ブースのテーブルについた。
座るや否や、書類を広げてマユミが話し始めた。
「ねぇ。これを見てちょうだい。民主党の大訪中団のパンフレットよ」

 

パンフレットの表紙には、五星紅旗の赤地に『2011民主党代表と行く大訪中団。8.15中国共産党主席との大晩餐会』の黄色い太文字が躍っていた。

 

「私、これに同行取材することになったのよ」
「民主党の大訪中団?」
美和子は訝しげにマユミを見て言った。
「そうよ。大訪中団は民主党が政権交代した直後にもあったけど、今回はさらに大規模なのよ。党の幹部と議員は全員行くわ。それに多くのKカード保持者が招待されるの。総勢3000人の大移動よ」
「3000人・・・」
「そうよ。飛行機のチャーターだけでも大変なものだわ。美和子は、Kカードをまだ取得してないから残念ながら今回の同行取材は無理なんだけど、私の取材の準備を手伝ってくれないかしら?美和子は、前に局にいた時に何度か北京を取材してるわよね。その時と比べて現在の北京はずいぶん変わっているでしょうけど、わかる範囲でいいの。下調べに手を貸してちょうだい」


マユミは、8月15日に民主党幹部と議員が中国を訪れることの意義を滔々と語った。

 

まるで得意の絶頂にいるかのようだったが、美和子には本来眩しいはずのマユミの姿が儚いものに見えた。

 

 


>>>> つづく

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