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「夫婦別姓」と「戸籍制度廃止」(8)

前回】のつづき>>>>

 

 

 

背後で、ガチャリと音がして、ドアが開いた。
美和子が振り向くと、作業着姿の若い男が一人入ってきた。

 

「矢頭さん。ただいま戻りました」
男が言うと、祐介は立ち上がって出迎えた。

 

「どう?うまく行った?」
「はい。小野寺と大高がモニター続けてます」
男はすらりとした長身で、女なら誰もが振り返りそうな涼しい目元の面立ちだった。
「奥で、間瀬君が送り側の作業やってるから」
「はい」
祐介は、男をじっと見ている美和子に気付いた。
「どう?イケメンでしょ、彼。岡野君って言うんだ。ああ、岡野君、こちら松永美和子さん」
美和子は立ち上がって、挨拶した。
岡野は、軽く会釈をすると、そのまま奥の部屋へ入って行った。

 

「ごめん。イケメンにありがちな無口な奴でね」
そう言いながら、祐介はソファに戻った。
「イケメンじゃなくて職人にありがちな、でしょ」
美和子は笑った。
「ああ、そうだった」

二人で笑っていると、最前から作業を続けているうちの一人が祐介を呼んだ。
 

「矢頭さん、27番から画像が入りました」
祐介は、また立ち上がって作業者の傍に行った。
「ああ、川村さんが設置してくれたヤツだね」
「はい」
「いいアングルだね。音声は?」
「バッチリです」
作業者は、ヘッドフォンを祐介に渡した。
「川村さんは、いつもいい仕事してくれるね。じゃあ、いつもの通り頼むよ」
祐介は、ヘッドフォンを返すとソファに戻ってきた。

 

「ねえ、先輩。川村さんって、あの川村さん?」
美和子は、祐介が腰かけるや否や問い詰めるように言った。
「そうだよ。川村さんは、さっきの岡野君の恋人の父親の知り合いなんだ」
「ねえ、何をさせているの?何か危ないことに巻き込んでいるんじゃないでしょうね?」
「川村さんには、ビル清掃の仕事を紹介したんだ」
祐介は、おどけたような顔をして言った。
「ビル清掃が、画像や音声とどう関係あるのよ?」
「だから、詳しくは言えないって言ったろ。」
「だいたい、ビル清掃って何よ?川村さんは、お琴や生け花の師範なのよ。もう少し増しな仕事を紹介できなかった

の?」

 

祐介は、脚を組み直すと身を乗り出しワザとらしく声をひそめて言った。
「民主党政権下ではね、伝統芸能は弾圧の対象なんだ」
「まさか!」
美和子が声を上げると、祐介はまたニヤリとした。
「まあ、直接の弾圧はやらかしてないけど、間接的には相当破壊が進んでいるよ。」
「どういうこと?」
「伝統的な習い事の師範なんて、それほど儲かるものじゃないんだ。弟子の感性を磨くために、できるだけ良い道具を使おうとしたりして、どうしても持ち出しが多くなるし。だからと言って、あまり授業料を高くすると習う人が集まらなくなるから、本来の目的である芸事の伝承が難しくなる。安定した家庭にいて、時間に余裕のある人でないと無理なんだ」
 だから、勢い専業主婦とか隠居した老人なんかがやってたんだけど。民主党政権は、扶養控除を廃止しただけでなく専業主婦税も導入したんだ。それに消費税も100%だろ。おかげで、伝統的な芸事の師範なんてやってる余裕のある人なんて、ほとんどいなくなったよ。働かざる者食うべからずってのは、旧ソ連以来の左翼政権のモットーだからね」

 

女性の社会進出を是とし、専業主婦に批判的だった美和子には耳の痛い話だった。

 

「ボランティアに頼っていた福祉の現場なんかも大混乱さ。ボランティアをやる余裕のある人間はいなくなったからね。おかげで福祉施設の利用料金が跳ね上がって、利用者も困ってる」

 

祐介は、暗くなるなと言いながら、美和子の気が重くなるようなことをサラっと言う。

 

これまで、美和子が理想としてきた社会は、こんなものだったのだろうか。自分の思想は間違っていたのだろうか。少なくとも、自分が望んでいたことは一つ一つ実現されたはずなのに、こんなにも多くの人を不幸にしている。
川村家の家族に囲まれ、お琴や生け花を指導して、明るく輝いていた智恵子を思い出すとやるせなかった。妹の涼子の友人だという、あのなりすまし一家が関係していると智恵子は言っていたが、実質的に川村智恵子の生活を破壊したのは美和子の思想が実現化した社会だった。

 

「先輩。私、分からなくなってきたわ。私の思想は、間違っていたのかしら」
そう言いながら、美和子は固く目を閉じ、深いため息をついた。
「別に、女性の社会進出とか、女性の地位を向上させたいとかって考えることは間違いじゃないと思うよ。だけど、全ての女性を巻き込むのは、明らかに君の嫌悪する全体主義に他ならないだろう。他人の思想に巻き込まれるのはごめんだと言いながら、自分の思想に他人を巻き込むのはエゴだよ。生き方なんて、人それぞれなんだから」
祐介の言葉に、美和子は、もう一度深くため息をついた。

 

「まあ、こんな話はこれぐらいにして、君がこれから住むところを用意してあるから、そこで少し落ち着くといいよ」
祐介はそう言って、部屋の鍵と住所を書いたメモを渡した。
 

「住むところって、そんなことお願いできないわ。自分で住むところぐらい自分で探すわ」
「そう言うなよ。川村さんからお願いされたんだ。厳密に言うと、川村さんにお願いされた、岡野君の恋人の父親が用意した部屋なんだけど。このオフィスのオーナーでもあるし、僕らも全員世話になっているんだ。金銭的なことは、気にしなくていいよ」
「でも・・」
「その分、僕らはここで働いているし、他の場所に住んで100%消費税の上乗せされた家賃なんて払いたくないだろ」
そう言って、祐介は笑いながら部屋のカギとメモを美和子の手に握らせた。

 

「ということは、先輩たちは、その岡野君の恋人の父親って人の指示で、世の中を元に戻す作業をやっているわけ?その方は、どんな人物なの?」
うーんと、祐介は少し迷ったように唸った。
「彼はね、元議員なんだけど、例の大量逮捕で今獄中にいるんだ。彼のお嬢さんが、連絡役になって彼の考えたプランを実行しているんだ。僕は、岡野君に相談を受けて、このプロジェクトチームを作って作業を進めているのさ」

「元議員?誰?」

 


「名前は言えない。ここでは、僕と岡野君しか知らないんだ。便宜上、大石さんって呼ばせてもらってるけど」


 

 

>>>>つづく

 

AUTHOR: kenzo1348 DATE: 07/25/2010 23:21:33 こんばんは。 前回(7)で頂いたヒントで矢頭は右衛門七かと思ったら、やはり赤穂浪士の面々が出てきましたな。 今後の展開を楽しみにしております。
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