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「夫婦別姓」と「戸籍制度廃止」(9)

前回】の続き>>>>>

 

 

 

美和子は、祐介に教えられた住所に向かって歩いた。

今になって気付いたが、街の中は活気が全くない。まるでゴーストタウンのようだ。荒んだ空気さえ感じられる。

祐介からは、できるだけ表通りを歩くように言われた。裏道には、絶対に入るなと。

そんなに治安が悪化しているのだろうか。

 

この街は、比較的新しく造成された住宅地に隣接していたから、子供のいる家庭が多かったはずだ。

以前は、この時間なら帰宅途中の中学生や高校生たちが、駅前を賑わしていた。

今は、学生服を着た若い子は一人もいない。

 

どうなっているんだろう。

 

ふと、後ろから誰かに付けられているような気配がした。

祐介は、人に付けられても気づかぬふりをして、表通りをずっと歩いて行けと言った。

表通りを歩いている限り大丈夫だからと。

 

美和子は、祐介に言われた通り、気にせず歩いていこうとしたが、後ろから聞こえてくる足音は複数だ。

三人ぐらいいるだろうか。しかも、どんどん近付いてくる。

心臓が高鳴った。気にするなと言われても、全身に心拍が響くほど緊張する。

走ろうにも、スーツケースが邪魔だし、よしんば走ったとしても一瞬にして襲われそうな気がする。

 

どうすればいいの?

 

美和子は、顔面に冷たい汗が流れるのも構わず必死に歩いた。

 

交差点の近くまでくると、突然、横道から少年が現れた。

「ひゃ!」美和子は、心臓が止まるかと思うほど驚いた。

 

「ねえ、おねえさん。お金恵んで」

少年は、ケロっとした表情で右手を出した。

 

「な、何を言っているの?」

「ねえ、お金ちょうだいよ」少年は、手を出したままだ。

額から流れる汗。高鳴る心臓。震える足。目の前の少年。何がなんだか分らないまま、美和子は絶句して立ちすくんだ。

すると、後ろを付けていた男たちのチッという舌打ちと、引き返す足音が聞こえた。

美和子は、後ろを振り向いた。三人の男が立ち去っていく姿が見えた。

 

「よかったね」少年はウィンクした。

「あ、助けてくれたの?」美和子はまだ、震えている。

「矢頭さんのお友達でしょ。母さんに言われて、ここで待ってたんだ。案内するよ」

少年は、美和子の前をスタスタと歩いた。

「あなたは?」

「僕?与一。僕の母さんが、矢頭さんたちに助けてもらって、これからおねえさんが住むビルに住んでいるんだ」

「そう。あの男たちは?」

「ああ、あれは特権階級だよ。」

「特権階級?」

「うん。民主党政権になってから、外国人とかが特権階級になってやりたい放題なんだ」

そんな馬鹿な事が起こり得るのだろうか。美和子には、信じ難かった。

「おねえさん、危ないから一人で出歩かない方がいいよ。出かける時は、僕の母さんに言ってくれれば、僕か僕の友達がついて行くから」

「ねえ、日本全国、こんな感じなの?」

「その辺は、後で母さんか矢頭さんにでも聞いてよ。僕、政治の事はよく分らないし」

与一は、小柄な少年だが、物言いがハキハキしている。

 

「あなた、中学生?」

「うん。本来なら」

「本来なら?」

「父さんが、半年前に病気で亡くなってさ。相続税が払えなくて家を取り上げられちゃったんだ。それで、母さんは女性救済センターに放り込まれるし、僕は児童福祉センターに預けられてさ。でも、あんな所いられなくて飛び出して浮浪児やってたんだ。さっきのお金恵んでっていうの、あれ、しばらく本当にやってたんだよ」

ずいぶんと暗い経験を、与一は明るく話す。そういえば、女性救済センターのことを川村智恵子は「女性の地獄」と言っていた。何なのだろう。

「それでね」与一は続けた。

「ある時、母さんの知り合いだった川村さんに拾われて、矢頭さん達の世話になるようになったんだ。細かい事は、母さんに聞いてよ」

「でも、今は落ち着いてるんでしょう。学校は?」

「学校なんて、誰も行ってないよ」

与一は、可笑しそうに笑った。

 

「僕みたいに、家族がバラバラになっちゃって行けなくなる子もいるけど。そうじゃなくても、今は学校でまともな授業なんてやってないから。先生の組合が強くなっちゃって、サボって給料貰ってる連中ばっかりになっちゃったんだ。真面目な先生は、いろいろ難癖付けられて辞めさせられちゃったし。組合の先生と韓国人の先生ばっかりになったと思ったら、途端に派閥争いが始まって授業なんかやらなくなっちゃったんだ」

「でも、勉強しないと将来困るでしょう」

「大丈夫、矢頭さんたちがオンラインで、いろんな授業やってくれてるんだ」

「先輩達が?」

「うん。面白いよ。韓国人の先生から教わったことと、まるで違う事が分るから」

あの先輩、いつから慈善事業に目覚めたのかしら?美和子は、くすくすと笑った。

「あ、おねえさん。ここだよ」

与一は、表通りに面した雑居ビルの前で止まった。

 

このビルのオーナーも、あの「大石」という議員なのだろうか。 

祐介達が「作業」をしているビルもその議員が提供しているようだし。事業家のか、財閥なのか。

 

与一は、小柄な体で美和子のスーツケースを引っ張ると、狭いエレベータに乗せた。

美和子をエレベータに乗せると、「おねえさんの部屋は四階だよ」と言ってボタンを押した。

「僕と母さんの部屋は三階だから、何かあったらいつでも来て。じゃあ、僕はまた出かけるから」

 

美和子は、閉まりかかるエレベータのドアの隙間から、表通りに出ていく与一の背中を見送った。

 

 

>>>>>つづく 

 

AUTHOR: kentanto DATE: 07/29/2010 23:01:25 前を読んでいませんが、「ビックブラザーへ」系のストーリーでしょうかね。 いやな渡世だねぇ。
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To kenzo1348さん
>こんばんは。
>
>矢頭右衛門七は、父長助の死後母や妹が安全に住める場所の確保に苦労したらしいのですが、美和子や智恵子への住家斡旋のくだりはその辺を連想してしまいます。 いや~maaz師匠、芸が細かい。
よくご存じですね~。芸が細かいんじゃなく、たまたまです(笑)
右衛門七ファンは多いですね。部屋住みの身分で義盟に加わり、享年17歳。
泣かせてくれます。

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